日 時 2016年7月20日(水) 18-19時
スピーカー 早川尚志さん(京都大学大学院文学研究科)
場 所 京都大学吉田泉殿


研究の背景

早川さんの専門は古文献にもとづくキャラバン貿易の研究で,そこで培った多言語を扱うスタイルが,後のオーロラ研究に結びついた。

太陽活動は地球上に電磁気的に大きな影響を及ぼす。特にスーパーフレアと呼ばれる数千年に一度の現象が起こった場合,地上の発電・送電インフラに大規模な障害が起こる可能性が指摘されている。太陽活動の近代観測はガリレオによる黒点観察以降の400年間に過ぎない。自然科学のアプローチとしては年輪の炭素同位体比や極地氷縞コアのベリリウム同位体比を調べたりする方法があるが,その解析手法故に一年以上の精度での解析は不可能である。一方で古文献には約2500年前のバビロニアにおけるオーロラ現象が記録されている。古文献を調べることでより詳細に過去の太陽活動を知ることができる。

オーロラを古文献から探す

オーロラを示す言葉は先行研究によって多様。その言葉を歴史文献から逐一探すのは膨大な作業量になる。最近では歴史文献がデジタル化されてテキストデータが公開される事で,一括検索を活用することにより大幅に作業は進めやすくなったり,従来では現地の文書館まで調査に赴いて調査せねばならなかった写本の画像が公開されるケースがあり,歴史文献へのアクセスが飛躍的に容易になった。オープンサイエンス(オープンデータ)の恩恵である。ただし無論,厳密な史料分析のためには最後は原典にあたる必要がある。

文理の研究者が集まり古文献調査を含めた包括的なオーロラ研究(Arora 4D Project)が始まった。成果発信はもとより,オーロラの写真を収集したり,地方の史料を集めたりしている。

市民と一緒に古典オーロラハンター

国文研と共催で市民参加型の古文献の調査イベントを行った。市民35名,研究者15名ほど。想定人数を大きく超えた参加希望者があった。国文研のネームバリューが有効だったのではないか。このイベントで新たなオーロラと思われる記述を発見した。

情報の質の担保・管理が重要

古文献には著作権や収蔵先のルールがあり,利用には細心の注意が必要である。(一部研究者は)発見された歴史文献をすぐにオープンにしようとする傾向があるが,歴史学においては誰が最初にその文献の報告を行ったかも重要であり,かつ拙速なネット公開は史料の性格や記述について十分な議論を欠いたまま誤解と虚像を一人歩きさせる可能性があるため,安易な公開は避けなければならない。論文化した後,史料の分析を十全に行なった上で当該の文献を公開するなど,研究者のインセンティブを保持する形で文献を利活用していく必要があるだろう。

また史料を保管するのもコストがかかっているため,所蔵機関にもメリットのある形が望ましい。オープンデータによる便利さと,文献が変に使われないための研究者の責任のバランスをどうとるかがポイント。

コメント・議論・質疑応答

  • オーロラプロジェクトでは研究者が市民の出したデータをチェックするとのことだが,zooniverseというサービスでは掲示板を利用することで市民同士の議論が生じ,またその経緯を研究者が見ることで自然発生的にチェック機能を果たしていた。
  • いつ論文を公開するのが適切か?
    • 歴史学ではすでに方法の蓄積がある。データを見つけたことに関するインタープリターデータペーパーという形があり,さらにそれを研究したものがリサーチペーパーとなる。
  • 見つけた文献そのものをデータと思うかどうかが,分野によって違うのでは
    • 歴史学では全文公開はあまり気にしない。そこに研究者の解釈やサーベイが入った状態で公開することは嫌がる。
  • 調査の質担保のため,能力テストで足切りしてはどうか?
    • あり得るかもしれない
  • オーロラの記述を見つけた本人に対する見返りはあるのか?
    • 最低限,論文化された際に謝辞に入る。研究のコアをなす発見であれば著者でも良い。
  • 市民で文献を研究者レベルに読める人はどのくらいいるのか
    • 全国では1,000人くらいいるのでは。部分的に読める人でも重要なデータになるのでそれを含めればもっと多いはず。
  • 画像のデジタル化をすれば複数人でひとつの画像を見ることで,独立した結果が複数得られる。Zooniverseでも行われていた。
    • デジタル化する作業が膨大になるため,それを利用するためにもお金がかかる可能性がある。かつ所蔵先との知的財産権関係の交渉も必須になる。また,デジタルデータだけでは最終的な信頼性に乏しく,最終的には何れにせよ原典をあたる必要があるだろう。